Antiques

銀座一丁目に奥野ビルという建物がある
竣工一九三二年という昭和ビルの国宝のような存在で、建物内に流れる空気は同じ時代に存在するビルのものとは思われなかった
その二階に、グラスと花で満たされた空間がある
グラスは大半がアンティークのバカラで、店主がアレンジした花とともに心地よい空間に収まっている

バカラはきらめくカットと成金ぽい金持ち趣味のデザインゆえ全く好まなかったのだが、アンティークのグラスを見てたちまち惹かれてしまった
繊細な作りとデザインで、とても同じバカラのものとは思えなかったからだ
光を受けて放たれる繊細な光、手にしたときしっくりとなじむ感触、美しいシルエット…
その一つひとつに我を忘れて向かい合った
中でも強く惹かれたグラスが二つあった
初めに惹かれたクープはすでにお嫁行きが決まっていたが、もう一つの百年前に作られたグラスは幸いまだパートナーを決めていなかったようなので、名乗りをあげた

並べられているグラスたちは、アンティークにしては珍しく「綺麗な」状態だった
どのくらい綺麗かというと、今そのままの状態で店頭に出しても先日作られた新品と思われるほど、一点の曇りも傷もない状態
生産されたものの、なんらかの理由で出荷されなかった未使用品らしく、それだけ状態のいいアンティーク・グラスがこれだけの数眺められることに鳥肌がたった
なので同じデザインのグラスが数点保存されていることもあり、私が選んだグラスも三点残っていたためその中から一つ選ぶことにした
ステムの太さや重さ、気泡などが異なるので、ひとつひとつ吟味して…となるところだが、即決だった
ステムの太さと気泡で二つに絞り、持ったときの感覚で一瞬にして決めてしまった
こういう時の判断は、自分でも驚くほど瞬間的なもの
今まで見た中で一番丁寧な包装をしていただいて、白いシャクヤクとともに家路に着いた

アンティークのグラスといえば、先日バー ラジオに行ってきた
酒好きなら一度は聞いたことがあるであろう、南青山にある有名なバーだ
同じ建物の上階にはレストランが入っており、共用の入り口なのだが、バーはそこからまっすぐに進む
店内はブルーの壁とブラウンの家具、アンティークのグラスが調和した美しい空間
壁のブルーは鮮やかさとともに重さも持ち合わせているので、決してポップにはならず、シックにまとまっている
棚に美しく並べられているアンティークのグラスは、震災でかなりの数が破損したそうだが、それでもこの数は圧巻
アンティークのグラスで出されるカクテルには、格別の美しさが宿るように思われる

このバーにはオリジナルのカクテルが多いのだが、一見さんにはオススメされない
というのは、カクテル作りにおいては基本となる組み合わせがあり、その範囲内でのレシピが最も美味しいとされているが、オリジナルはそこから逸脱しており万人ウケするものではないこと
それから酒を酒で割っているため総じてアルコール度数が高く、この二つの理由からオススメされないのだ
隣りの方に一口いただいたが、確かにとても「オリジナル」な味で、なんと表現してよいか皆目見当がつかなかった(単に語彙がないからではない…)
きっといいお酒を知り尽くした大人が最後に行きつく境地なんだろうな…と思い、そうなることを願った

最近このグラスを含め、ビンテージやアンティークものを手に取ることが多くなった
時を超えて紡がれるものの美しさに言いようもなく惹かれるのは、私がさまざまな感情を経験し、内面が少し大人になったからだろう
中学生のときはファースト・ティファニーがビンテージの置き時計になるなんて、全く思いもしなかったのだから

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